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2025.04.02
ホテル・旅館経営
【目次】
ホテルの開業で失敗する要因の1つとして、企画から開業に至るまでの「スケジューリングの甘さ」が挙げられます。
ホテルを開業するには、各業者や役所など、多くの関係者とも連携する必要があるため、綿密なスケジューリングは欠かせません。
そこで本記事では、ホテルを開業するまでのスケジュールについて、期間別ごとにやるべき準備や施策を紹介します。
ホテルの開業には、構想・企画段階からグランドオープンまで長期にわたる準備期間が必要です。
ここでは、時系列に段階を区切って準備内容をまとめました。
開業までの期間 | 主な準備・施策 |
---|---|
開業24〜18ヶ月前 | ・土地・物件の検討と市場調査 ・コンセプト構築&ブランディング構想 ・資金調達・投資スキームの検討 ・全体スケジュール草案の作成 |
開業18〜12ヶ月前 | ・基本設計の開始、設計事務所・施工会社の選定 ・行政との事前協議・許認可準備 ・ブランドガイドライン策定 ・ファイナンスプランの再確認 |
開業12〜9ヶ月前 | ・詳細設計の決定・着工準備 ・許認可申請の本格化 ・プロジェクト管理体制の強化 ・リスクマネジメント計画の策定 |
開業9〜6ヶ月前 | ・マーケティング戦略の具体化 ・地域連携・CSR活動の検討 ・IT・スマートホテル化の導入計画 ・採用計画の策定 |
開業6〜3ヶ月前 | ・施工管理と内装・設備の仕上げ ・許認可取得の最終手続き ・スタッフ採用・研修スタート ・販売チャネル開設&ブッキング開始 |
開業3〜1ヶ月前 | ・プレオープン・内覧会の実施 ・オペレーション体制の最終調整 ・リスクマネジメント再点検 ・PR活動のピーク |
グランドオープン | ・開業式やセレモニーの実施 ・当日のオペレーション管理 ・開業後のレビューと運営改善サイクル |
期間によって行うべきタスクは異なり、どの時点で何を実施すれば許認可をスムーズに取得できるのか、またどのタイミングでリノベーションや施工を始めるのがベストなのかなど、事前にしっかりプランを組み立てておくことが大切です。
ホテル開業の工程は長期にわたるため、区切りごとに準備タスクを整理することが必須です。一般的には、以下の流れで整理をすると良いでしょう。
ここからは、これらの期間それぞれにおいて「どのような準備や施策」を行えばいいのか、詳しく解説していきます。
準備・施策 | 詳細 |
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土地・物件の検討と市場調査 | ・立地選定、投資家・ステークホルダーとの意見交換 ・周辺競合や観光需要の予測 |
コンセプト構築&ブランディング構想 | ・新ブランドのテーマやターゲット顧客の明確化 ・外資チェーンと提携する場合はブランド基準の調整 |
資金調達・投資スキームの検討 | ・金融機関や投資家への事業計画の初期プレゼン ・補助金・助成金の情報収集 |
全体スケジュール草案の作成 | ・設計/施工、許認可、採用/研修などの大まかなロードマップ |
ホテル開業に向けた最初のステップは、明確なビジョンを打ち立てることです。この段階が曖昧なままだと、後続フェーズでの設計や施工、運営方針に大きなブレが生じ、結果的に追加コストの発生やスケジュールの大幅な遅延につながる可能性があります。
まずは土地や物件の候補を洗い出し、その立地がターゲットとする顧客層や観光需要と合致しているのかを調査しましょう。
また、コンセプトやブランド構想を固めることで、外資系チェーンと提携するか自社独自ブランドで展開するかなど、事業運営の方針も定まりやすくなります。
並行して、金融機関へのプレゼン資料や投資家へのピッチを準備することも重要です。どのような顧客体験を提供したいのか、どの時点で収益が安定する見込みがあるのかといったビジネスモデルを数字で示すことが、資金調達の成功率を高める要因になります。
なお、国や自治体による補助金・助成金が得られる場合があるので、「どのプログラムが使えそうか」を早めにチェックしておくとよいでしょう。
このタイミングで、建築プロジェクトに関する全体スケジュールの草案を作成すると、行政機関とのやり取りもスムーズになります。
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ホテル開業の費用・失敗しない対策について
準備・施策 | 詳細 |
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基本設計の開始 設計事務所・施工会社の選定 | ・コンセプトを具現化するデザイン案の検討 ・施工費用・工期の見積もり依頼、業者比較 |
行政との事前協議・許認可準備 | ・旅館業法、建築基準法、消防法などの要件確認 ・保健所や建築指導課、消防署へのヒアリング |
ブランドガイドライン策定 | ・ロゴ・内装イメージ ・サービススタイルの方向性 ・大手ホテルチェーンの場合はブランドマニュアルのローカライズ |
ファイナンスプランの再確認 | ・借入や投資家の出資比率 ・条件の具体化 ・補助金・助成金申請準備(要件・期限の確認) |
この時期からは、コンセプトを実際の形に落とし込む段階に入ります。基本設計を行う際には、客室数や客室レイアウト、共用部分の動線や設備など、運営面も踏まえて検討することがポイントです。
さらに、設計事務所や施工会社を選定する際は、費用面だけでなくスケジュール管理や過去の実績、アフターフォロー体制にも注目しておきましょう。工期の遅れは大きな損失につながる可能性があり、信頼できるパートナー選びが欠かせません。
行政との事前協議もこの時期にスタートしておけば、実際に許可申請を行うときに不備や要修正箇所が減りやすくなります。保健所や消防署、建築指導課など、それぞれの管轄部署に対して、図面やコンセプトを示しながら早めに確認作業をするのが理想です。
あわせて、旅館業営業許可申請にかかわる要件(構造設備基準や周辺環境の状況など)を再度洗い出し、疑問点があれば事前に相談してクリアにしておきましょう。
準備・施策 | 詳細 |
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詳細設計の決定・着工準備 | ・インテリアや設備、客室数 ・動線設計の最終確定 ・施工スケジュールの具体化と工事契約の締結 |
許認可申請の本格化 | ・建築確認申請、消防計画書、旅館業営業許可の申請 ・書類のやり取りや補正対応 |
プロジェクト管理体制の強化 | ・工事監理・進捗管理を担う社内外担当者の割り振り ・定例会議や報告書フォーマットの確立 |
リスクマネジメント計画の策定 | ・工期遅延・設計変更時の対応フロー ・バッファ期間や追加予算の確保 |
基本設計からさらに踏み込んだ詳細設計を行い、施工に着手する重要なフェーズです。実際の使い勝手を左右する部分が固まるため、運営目線を持つ担当者と設計・施工チームの連携が欠かせません。
細部のデザインが決定したら、最終的な施工スケジュールを確定し、正式な工事契約を結ぶ流れになります。
この時期に許認可申請も本格化するため、書類の不備を防ぐための体制づくりが急務です。少しでも疑問があれば早めに専門家に相談するとよいでしょう。
プロジェクト管理面では、社内外の担当者間で進捗状況を共有する仕組みを確立することがポイントです。週次や月次の定例会議を実施し、工程表やレポートをもとに進捗と課題を可視化するのが理想的でしょう。
ホテル開業のように多くのステークホルダーが関わるプロジェクトでは、連絡ミスや認識齟齬が生じやすいため、議事録や報告書のフォーマットを統一しておくと効率的です。
準備・施策 | 詳細 |
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マーケティング戦略の具体化 | ・公式サイトやSNSの制作・運用方針 ・OTA(Online Travel Agency)への掲載準備 |
地域連携・CSR活動の検討 | ・地元住民向けの説明会、観光協会との連携施策 ・SDGsやサステナビリティの取り組みを盛り込む |
IT・スマートホテル化の導入計画 | ・PMS(予約・顧客管理システム)やIoT活用の要件定義 ・チェックイン機の発注やシステム連携スケジュールの確保 |
採用計画の策定 | ・経験者・未経験者比率や人件費シミュレーション ・採用ルート(求人媒体、人材紹介、専門学校など)と募集要項の作成 |
9〜6ヶ月前の段階に入ると、施設の基盤づくりと並行して、マーケティング活動を本格化させることが求められます。
ホテルの運営形態によっては、ビジネス客をメインに狙うのか、ファミリー向けサービスを充実させるのかなど、ターゲット層が明確に異なるケースがあるため、公式サイトやSNS、旅行予約サイト(OTA)での訴求ポイントを早めに固めておくと良いでしょう。
開業前からの情報発信は、ブランド認知度向上や事前予約獲得につながり、オープン当初から一定の稼働率を期待できる点がメリットです。
IT技術の導入は、開業後の運営効率や顧客満足度を左右する大切な決定事項です。PMSやセルフチェックイン機を導入する際は、建物のレイアウトに影響が出ることもあるため、内装工事との兼ね合いを踏まえて早めに発注や要件調整を行う必要があります。
また、この時期はホテル運営に欠かせない各システムを選定するタイミングでもあります。予約管理・顧客管理・会計処理など、効率的な運営に必要なシステムがすべて備わった「オールインワンシステム」は有効な選択肢の1つです。
システムの連携仕様が複雑になるほど導入期間が延びる傾向があるため、予備期間を確保することを意識しましょう。
準備・施策 | 詳細 |
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施工管理と内装・設備の仕上げ | ・定例ミーティングでの工程チェック、トラブルシュート ・家具・インテリアの発注や備品の搬入計画 |
許認可取得の最終手続き | ・消防検査、保健所検査の日程調整・立会い準備 ・旅館業営業許可証の発行 |
スタッフ採用・研修スタート | ・重要ポジション(支配人、総支配人、チーフなど)の早期着任 ・接客マニュアル・清掃マニュアルの作成と導入 |
販売チャネル開設&ブッキング開始 | ・OTAでの予約受け付け開始 ・公式サイトの予約システム実装・テスト稼働 |
残り6〜3ヶ月の時期は、施工が最終段階に差し掛かり、同時にスタッフ体制を確立してオペレーションを回すための準備が必要になります。
まず、施工管理においては、内装工事や設備の仕上げが集中することから、工程が遅れやすい傾向があります。特に海外から調達する家具や特注品がある場合は、輸送の遅延リスクを見越して早めのオーダーとこまめな進捗確認が大切です。
定例ミーティングを活用し、トラブルが発生した場合には即座に代替案を検討できるよう、体制を整えておきましょう。
許可取得に関しても、消防検査や保健所検査の日程調整を行い、問題なく合格できるよう事前のリハーサルやチェックを行う必要があります。
消防設備の配管や避難経路のサイン、衛生管理上のポイントなど、指摘を受けやすい事項をリストアップしておき、修正工事が発生した場合にも対応できる余裕を持たせておくと安心です。
一方で、スタッフ採用や研修も本格化します。すでに採用が決まっている重要ポジションの早期着任を促し、サービスマニュアルや清掃マニュアルなどを整備する時期です。
ホテル独自の接客スタイルやブランディングを理解してもらうためには、実地研修やロールプレイなどを実施すると効果的です。
準備・施策 | 詳細 |
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プレオープン・内覧会の実施 | ・メディア・関係者・地元住民向けの特別招待 ・実稼働テストとフィードバック収集 |
オペレーション体制の最終調整 | ・スタッフのシフト確定、各部署間の連携テスト ・PMS・会計システム・AIチャットボットなどの本番稼働リハーサル |
リスクマネジメント再点検 | ・保険契約内容の確認、緊急時連絡網・対応マニュアルの完成 ・施設トラブルやクレーム対応方法の周知徹底 |
PR活動のピーク | ・マスメディア、SNS広告、インフルエンサー招致などで集客を加速 |
オープンを目前に控えた3〜1ヶ月前の段階では、プレオープンや内覧会を通じて実際の運営をテストし、不足や問題点を洗い出す作業が中心になります。
プレオープンでは、メディアや関係者、地元住民などを招いて設備やサービスを体験してもらい、そのフィードバックをもとに改善を行うという流れです。
このとき、接客マナーや設備の使い勝手など、細部にわたってさまざまな視点からチェックを受けるため、想定外の課題が見つかることも珍しくありません。
オペレーション体制の最終調整としては、スタッフのシフトや各部署の連携手順を確定させ、PMS(予約管理システム)や会計ソフト、さらにAIチャットボットなどを導入する場合は、実際にゲストが使う状況を想定してリハーサルを行うのが理想的です。
ここで発見された問題を素早く修正しないと、グランドオープン後にクレームの原因となり、ブランドイメージに大きく影響する恐れがあります。
準備・施策 | 詳細 |
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開業式やセレモニーの実施 | ・式典やテープカット(必要に応じて)、ウェルカムキャンペーンの展開 |
当日のオペレーション管理 | ・到着ゲストの対応、混雑時のフォロー体制 ・SNSでのリアルタイム情報発信、口コミ誘導 |
開業後のレビューと運営改善サイクル | ・スタッフからの声、ゲストの口コミ分析 ・今後のアップグレード計画や地域連携強化の継続 |
いよいよ迎えるグランドオープン当日は、ホテルにとって大切な門出ですが、同時に想定外のトラブルが起こりやすいタイミングでもあります。
システムの不具合やスタッフの連携不足、急な予約増加など、どれだけ準備を重ねても完全に防ぎきれない問題が発生することがあります。オープン当日は予備スタッフを多めに配置し、フォロー体制を整えておくことが望ましいでしょう。
特に、フロント周りはチェックイン・チェックアウトが集中しやすく、お客様のファーストインプレッションを左右するため、万全の準備が必要です。
開業後は、運営実績やお客様からのフィードバックをもとに、PDCAサイクルを回しながらサービス品質を向上させるフェーズに移行します。スタッフの意見や口コミ分析により、客室設備やアメニティ、接客対応に改善すべき点が見えてくるでしょう。
ホテル事業を安定的に成長させるためには、グランドオープン後の運営戦略がとても重要です。開業当初は多くの初期投資や開業キャンペーンでコストが膨らむ一方、稼働率が安定するまで収益が伸び悩む時期も考慮しなくてはなりません。
こういった状況を乗り越えるには、PDCAサイクルを継続的に回しながら運営オペレーションの効率化を進めると同時に、施設やサービス面のアップデートに積極的な投資を続けることが大切になります。
さらに、IT技術を活用したスマートホテル化は、運営効率化と顧客満足度向上の両面で大きなメリットをもたらします。スマートチェックインやAIを活用したレコメンド機能、IoTデバイスによる省エネ管理など、初期費用はかかるものの、長期的にはコスト削減や顧客体験の向上につながる可能性が高いです。
また、地域と一体となった観光振興やCSR活動を行うことで、地元住民との信頼関係を築くことができます。近年は旅行者も「地域とのつながり」や「ローカル体験」を重視する傾向が強まっており、地域連携やサステナビリティへの取り組みがマーケットでの差別化ポイントにもなってきています。
地域の特産品や伝統文化をホテルのアクティビティに組み込んだり、地産地消のレストランメニューを提供したりするなど、長期的な視点で魅力を高める施策を検討しましょう。