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2024.02.27
ホテル・旅館経営
【目次】
ホテルの経営・運営を始めるには、ホテルに関するいくつかの予備知識が必要です。
必要な資格や許可、収益構造を知っておくことで、ホテル経営がスタートしやすくなります。
また、ホテル経営のリスクや成功ポイントも理解しておくと、長期的に安定した経営が可能になります。
本記事では、ホテルの経営方式、収益構造、失敗しない経営ポイント、などを中心にご紹介します。
コロナ禍の低迷を脱しつつあるホテル業界は、徐々に宿泊客も増えてきており、売上も回復傾向にあります。
「観光庁 宿泊旅行統計調査(令和5年8月分)」によると、2023年8月の日本人宿泊客数・外国人宿泊客数はともに、コロナ禍前の2019年8月と同程度です(以下データ参照)。
全体 | 日本人 | 外国人 | |
---|---|---|---|
2023年8月 | 6,227 | 5,193 | 1,034 |
2019年8月 | 6,323 | 5,374 | 948 |
円安の影響もあり、インバウンドはコロナ禍前よりも増えています。
また、帝国データバンクによると、2023年度の旅館・ホテル市場の売上高は、コロナ禍前と同程度の「4〜5兆円前後」に到達する可能性があると予想されています。
参考:帝国データバンク「旅館・ホテル業界」 動向調査(2022 年度)
このように、ホテル業界は宿泊客数・売上ともに順調な回復傾向にあります。
今後も円安傾向が続くようであれば、インバウンドはもちろん、海外旅行よりも国内旅行を選ぶ人たちも増えていくでしょう。
ホテルの経営形態には、以下の4つの方式があります。
それぞれの特徴やメリットなどを、順に紹介します。
所有直営方式は、ホテル経営としては一般的な形態で、ホテルの所有者が「ホテルの経営・運営」も手掛けます。単独型経営とも言われます。
この経営形態で有名なホテルは、帝国ホテル、リーガロイヤルホテル、ホテルニューオータニ、ワシントンホテル、ホテル椿山荘東京などです。国内にあるシティホテルの多くも、単独型経営をしています。
資金的な体力がある大企業が母体となるケースが多く、トレンドやニーズに合わせて施設を増改築しやすいというメリットがあります。
また、不動産所有者でもあるため、金融機関からの融資を受けやすく、社会的信用も高いです。
安定した収益化を図るには、ホテル経営の専門的なノウハウが必要となります。
管理運営受託(委託)方式は、ホテルの所有者が「ホテル運営を別会社に委託」する、もしくはホテルを所有していない会社が「ホテル運営のみを受託する」方式です。星野リゾートなどがこの方式を採用しています。
受託する側(委託された側)は、支配人や幹部社員をホテルに派遣して、ホテル全体の管理・運営をします。
ホテル所有者にとっては、ホテルのマネジメントを運営会社に委託することで、経営の負担を軽減するメリットがあります。
運営会社にとっても、巨額の費用を投じて土地や建物を取得する必要がなく、安定した収益化を図ることが可能です。
ホテル所有者と運営会社の間で「利害が一致しない」ケースが頻発すると、長期的に良好な関係を続けられなくなります。
リース方式は、ホテル所有者が運営会社に「ホテル1棟を丸ごと貸し出す」方式です。ビジネスホテルで、この方式が多く採用されています。東横イン、ホテルルートインなどがこの方式です。
ホテル所有者には、経営をしなくてもリース料(賃貸収入)が支払われるため、長期的に安定した収益を得ることができます。
運営会社にとっては、短期間に複数のホテルをチェーン化できるメリットがあります。
しかし、所有者の合意を得られないと、ブランドイメージに合ったリノベーションや改修ができません。
フランチャイズ方式は、ホテル所有者がホテルチェーンに加入して「経営ノウハウ」と「ブランド使用権」を得る方式です。本部へは「加盟料」や「経営指導料(ロイヤリティ)」を支払う必要があります。
初めてホテル経営をする場合、ホテル経営の知識が無い場合などは、0からホテル経営をするよりもスムーズに収益化が図れます。
ただし、ホテルの収益状態に関係なく、一定額のロイヤリティを支払わなければなりません。
スーパーホテル、アパホテルなどが、フランチャイズ方式を採用しています。
ホテル経営をするにあたって、ホテル所有者が「取得しておくと便利な資格」はいくつかあります。
また、ホテルを開業・運営するには「取得しなければならない許可」もいくつかあるため把握しておきましょう。
これらの資格や許可について、ここから説明します。
ホテル経営に必要となる主な資格について紹介します。
【危険物取扱者(乙種4類)】
ホテルで使うボイラーの燃料として「重油」を扱う場合、危険物取扱者の有資格者を置く必要があります(消防法で「重油は危険物」として定められているため)。
ホテルの所有者や支配人が危険物取扱者の資格を取得しておくと、わざわざ有資格者を雇う必要がなくなるため人件費節約にもなります。
【消防設備士】
ホテルには、消火器・消火栓・スプリンクラーなどの消火設備、火災報知器などの警報設備、避難はしごなどの避難設備、といった種々の消防設備が設置されています。
これら消防設備の管理・点検には消防設備士の資格が必要です。
小規模な宿泊施設では、支配人やマネージャーが消防設備士の資格を取得するケースもあります。
【防火管理者】
ホテルなどの宿泊施設は「特定防火対象物」です。収容人員が30人を超える場合は、防火管理者の選任が義務付けられています。
防火管理者は、消防計画を策定して、消防訓練、設備の点検(自主点検)をする必要があります。
この資格を有する人は防火管理に対して責任を負う立場であるため、ホテルのオーナーや支配人など権限がある人が適任です。
【ボイラー技師(二級)】
ホテルでは、浴場やサウナのためにボイラーが設置されています。ボイラーが安全に稼働するよう、点検や調整などが必要です。ボイラーの取り扱いには危険が伴うため、労働安全衛生法の関係上「有資格者のみ」にボイラーの取り扱いが認められています。
資格取得者を雇わずに、ホテルの所有者や支配人が資格を取得するケースもあります。オーナーや支配人など、施設全体を管理する責任者が資格を持つことで、トラブル時にも迅速な対応が可能になります。
【食品衛生責任者】
飲食店の営業、食品の製造、肉や魚の加工をする職場などには、食品衛生責任者の有資格者を最低1名は配置しなければなりません。
ルームサービス、レストランなどを営業するホテルでは、食品衛生責任者の配置は必要不可欠です。
アルバイトやパートを中心にホテル内レストランを営業するなら、食品衛生責任者の資格を持つ社員を配置するようにしましょう。
ホテル経営をするために必要な、主な許可について紹介します。
【ホテルの営業許可】
ホテルを営業するにあたって、旅館業法に基づく「営業許可」を受ける必要があります。客室が洋式中心で10室以上、1室の床面積が9平方メートル以上の場合です。
無許可で営業すると、6ヵ月以下の懲役もしくは100万円以下の罰金となります。
ホテルの規模により許可が降りるまでの日数は変わりますが、おおよそ10営業日前後で許可が下りることが多いです。
【飲食店業許可】
ルームサービス、ホテル内レストランなどで飲食物を提供する場合、保健所が管轄する「飲食店業営業許可」が必要です。
許可をもらう手順は、以下の流れになります。
手続きに問題がなければ、申請後2〜3週間で営業許可書が交付されます。
また、検査基準は保健所ごとに若干異なります。あらかじめ確認しておくことをお勧めします。
【公衆浴場営業許可】
ホテルで「宿泊客以外の日帰り客など」も利用できる浴場やサウナを設置する場合、公衆浴場営業の許可が必要になります。宿泊客のみに対する大浴場の設置に際しては、許可を取る必要はありません。
管轄は保健所で、許可をもらう手順は以下の通りです。
審査にかかる期間は都道府県ごとに異なります。ホテルオープンの2ヵ月前までには申請をしましょう。
また、宿泊者に限定した大浴場を設ける場合は、公衆浴場法の基準に基づいて浴場を設置する必要があります。
ホテル収益の中心となるのは、主に以下の3つの部門です。
ホテルの収益構造を理解しておくことで、収益の拡大化や、効率的な収益化を目指すことができます。
宿泊部門は「ホテル収益の大半を占める」重要な部門です。ホテルの規模・経営形態に関わらず、すべてのホテルで提供されるサービスでもあり、売上拡大や利益率アップを図るためには欠かせません。
宿泊業務はホテルのメインサービスであるため、フロント、清掃、サービスなどのスタッフにかかる人件費など、多くの経費がかかる部門でもあります。
一般的には「60%以上の利益率」を確保することが目安とされ、宿泊料金や稼働率を高めていくことで、利益率のアップが可能です。
飲食部門は「ホテル内で飲食を提供する」部門で、ホテル内で運営しているレストラン、カフェ、バーなどがあります。
宿泊客への夕食や朝食の提供だけでなく「宿泊客以外」からも利用してもらい、店の売上を高めることが可能です。
調理やホールなど多くのスタッフが関わっているため、人件費も多くかかります。また、食材廃棄によるロスも発生するため、利益率を向上させにくい部門でもあります。
データ等を利用しながら販売予測を立て、価格や使用する食材量をコントロールすることが、利益率を高めるポイントです。
宴会・イベント部門は「1度で大きな利益を得られる」部門で、飲食部門よりも利益率も高いです。
団体・グループを対象として、料理や飲み物の提供、場所の貸し出しなどをするため、まとまった収益を得られます。
あらかじめ人数や日程を決められることもあり、人件費や原材料費をコントロールしやすいというメリットもあります。
宿泊部門だけでなく、宴会やイベントについてもサービス品質やコスト見直しをすることで、大きく利益率を改善することも可能です。
ホテル経営をする上で、以下のリスクは理解しておく必要があります。
これらのリスクについて詳しく紹介しつつ、回避する方法にも触れていきます。
ホテル経営には、多額の維持費がかかります。
初期費用以外にも、以下の経費が必要です。
ホテル経営を始めるにあたって、数千万から数億円の費用がかかりますが、ホテルを維持していくにも膨大なコストが必要になります。
維持費の増大、キャッシュフローの悪化、集客率の低下、といったことが続くと、一気に赤字へと転落してしまいます。
デジタル化による人件費削減、直接仕入れによる原材料費削減など、毎月の維持費をいかにスリム化していくかも、ホテル経営の重要なポイントです。
ホテル経営は、社会情勢や景気などに左右されやすいことも覚えておきましょう。
近年は、インバウンドの需要もホテルの売上を大きく左右する要因のひとつです。
また、コロナ禍でホテル業界は大打撃を受けましたが、現在はほぼ回復傾向にあります。円安傾向が強くなったこともあり、再びインバウンドは大きく伸びてきています。
柔軟な価格設定、インターネット集客の活用など、いかにして安定した集客ができるかを目標に、平常時から戦略的にアプローチしていくことも大切となるでしょう。
ホテルの経営で失敗しないためには、以下の4つのポイントを押さえておく必要があります。
これらのポイントについて、ここから詳しく紹介します。
ホテル経営においても、ターゲット層を明確にすることが重要です。
例えば、以下のようにターゲットを決めます。
ターゲット層の中でもニーズが分かれるため、もう少し深掘りしてターゲットを明確にします。たとえば、ビジネスマンにもいくつかニーズがあります。
どのようなニーズに応えていくかも、ターゲット設定では重要な要素です。
ターゲットを決めると同時に、ホテルのコンセプトも明確にしましょう。
ターゲットとコンセプトによって、ホテルの経営形態、選ぶべき立地エリアなども異なります。ビジネスマンがターゲットなら駅近く、観光客がターゲットなら観光地の近く、といった感じです。
既に、ホテルの場所が決まっている場合は、地域の人口や交通量や特性などを考慮してターゲットやコンセプトを考えましょう。
極端な値下げ、激安プランなど、利益を度外視した価格設定は極力控え、自ホテルの利益率を考慮した適正価格を設定しましょう。
不適切に安過ぎる価格だとホテル経営は成り立ちませんし、高過ぎる価格設定だと集客に困ります。
周囲にライバルホテルが増えてくると値下げ合戦が起こる可能性もありますが、価格競争をするのではなく「サービスの質」で勝負した方が、長期的なホテル経営にも有利です。
コスト、サービス内容、周辺相場などを踏まえつつ、価格設定を適正化していきましょう。
ホテル運営には多大なコストがかかります。
利益確保のためには売上アップも大切ですが、コスト削減も重要なポイントです。
施設の維持費、システム管理費などは柔軟に変えられないため、閑散期には人件費を抑える、団体客が多い時期のみ食材の仕入れを増やす、といったメリハリをつけた経営が必要になります。
また、管理システムを導入することで人件費を抑えることも可能です。
Check Inn、aipass for hotels、といったランニングコストが安価なシステムの導入も検討してみましょう。
ホテルの宿泊客が増えないと、ホテル経営は成り立ちません。いかに効率良く宿泊客を集められるかがポイントです。
また、ホテル集客には、主に以下の方法があります。
あらゆる手段でホテルの認知拡大をしつつ、ホテルの魅力も伝えていきましょう。価格のみで勝負すると経営を圧迫するため、しっかりとブランド作りをしていくことも重要です。
ホテル管理システムで得られるデータなどを活用しながら、集客のためのマーケティング戦略を実施していきましょう。
ホテル経営にはいくつかの形態がありますが、いずれの形態であっても「正しい戦略」で経営することが大切です。
そのためには、ホテルの収益構造をしっかり理解し、ホテル経営のリスクも知っておきましょう。
ホテル経営が成功するか否かは、ターゲットの選定、適正価格の設定、コスト削減、集客強化、といった施策によって大きく左右されます。
ホテルなどの宿泊業界は、社会情勢や景気によって大きく影響を受ける業態だからこそ、正しい戦略で経営することが重要になるでしょう。