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2025.07.31
ホテル・旅館経営
【目次】
ホテルを開業したいと考えたとき、最初に気になるのが「資金はいくらかかるのか」ということ。物件取得から設備投資、運営費、許認可など、費用は多岐にわたります。そこで本記事では、開業に必要な費用の内訳や資金調達の方法、資金計画の立て方までを解説していきます。

ホテル開業には初期費用だけでなく、運営開始後の資金も必要です。ここでは、費用構造の全体像をつかむことから始めましょう。
ホテルを開くには、最小で1,500万円程度、規模や立地によっては数億円の資金が必要になることもあります。
この金額は、物件の状態や開業スタイルによって大きく変わります。たとえば、既存の建物を活用して小規模な宿を始める場合、比較的低予算でもスタート可能です。一方、都市部での新築や、高級ホテルとしての開業を目指す場合は、土地代・建設費・設備投資などが膨らみ、大規模な資金が求められることも。
費用の幅が広いため、自分がどのスタイルのホテルを目指すのかを明確にすることが、資金計画の出発点となります。
開業資金とは、ホテルを立ち上げ、安定した運営に乗せるまでに必要な一連の費用を指します。一般的には、施設の整備にかかる「初期費用」と、開業後しばらくの運営を支える「運転資金」の2つに大別されます。必要な金額は、ホテルの規模や立地、コンセプトによって大きく変動しますが、以下に主な業態別の概算をまとめました。

10〜30室程度のビジネスホテルを立ち上げる場合、トータルで1億円前後の初期投資が必要になるのが一般的です。
とくに、物件取得や改装工事に加えて、運転資金や人材採用費なども含めると、想像以上にコストがかさむことがあります。
以下は、代表的な費用項目とその金額目安です。
土地を購入する場合や、賃貸でも保証金・礼金・仲介手数料を含めると高額になることがあります。
また、立地が駅近や市街地であるほど、取得費は上振れしやすくなります。
新築またはリノベーション工事にかかる費用。客室の内装や共有部の設計、耐震・消防対応の追加工事などが含まれます。
ベッドや家具、冷蔵庫、テレビ、Wi-Fiルーターなどの客室設備に加え、セキュリティカメラやPMS(フロント管理システム)などのIT設備も含まれます。
Webサイト制作、OTA(予約サイト)登録、看板、パンフレット、SNS広告などを含みます。開業時は集客の初速を高めるためにある程度の投資が必要です。
スタッフの採用費、研修費、制服代など。開業から数カ月分の人件費を含めて見積もっておくと安心です。
開業直後は売上が安定しないため、光熱費や備品の補充、食材などの仕入れ、人件費に備えて半年〜1年分の資金を確保しておくのが理想です。
設備トラブルや法改正による追加対応など、想定外の出費に対応するためのバッファ資金です。
このように、比較的小規模なホテルであっても、合計で約1億円〜1.5億円を見込んでおく必要があります。
立地や物件の条件によってはコストを抑えることも可能ですが、融資や補助金の活用を前提とした資金計画を立てることが、開業成功の第一歩となります。

駅前や観光地に立地する中規模のビジネスホテルでは、客室数の多さに加え、ロビーや朝食会場といった共用部の整備も求められるため、初期費用は大幅に増加します。
また、法人需要や団体利用を見込む場合、フロント業務や清掃体制を整える必要があり、設備・人件費ともに小規模ホテルの比ではありません。
物件や設備のグレード、立地条件によっては、3億円を超えるケースもあります。
代表的な費用項目と目安金額は以下のとおりです。
都心や主要駅近に立地する場合、土地購入費や賃貸契約金が高騰しやすく、不動産仲介手数料も含めて高額になりがちです。
客室数の増加にともない、構造補強や防火・防災設備への投資が増加。加えて、共用設備(エレベーターや共有廊下)の整備にも費用がかかります。
ベッドや家具、冷蔵庫などの客室備品の数量が増えるうえ、大型空調や給排水システム、館内ネットワーク環境の整備も必要になります。
開業時の販促活動は、小規模施設以上に本格的に行う必要があります。OTA強化、Web広告、看板、パンフレットなど多様な施策が前提となります。
フロント・清掃・朝食提供スタッフなど、オペレーションに関わる人員を多数採用。開業前後の教育・研修にもまとまった資金が必要です。
開業後に稼働率が安定するまでの数カ月間、固定費がかさみます。人件費・光熱費・仕入れ費用などをまかなう余裕資金が不可欠です。
建築費の上振れや備品の故障、予期せぬ行政対応などに備えたバッファです。
中規模ホテルでは、構造・設備・人材・販促のすべてが“フルセットで必要”になるため、費用全体が階段状に跳ね上がります。
その分、稼働率を高めて利益を出しやすいスケールでもあるため、資金調達の組み立て方と初期戦略の緻密さが、開業後の軌道に大きく影響します。

シティホテルやリゾート型、ブランド系ホテルなど、フルサービスを提供する高級路線では、施設の規模や設備の充実度に応じて、開業資金が大きく変動します。とくに都心部で新築する場合は、10億円を超えるケースも珍しくありません。
以下は、費用項目ごとの目安です。
主要都市で大型物件を購入する場合は、1〜2億円規模になることも。賃貸の場合でも高額な保証金が必要になります。
耐震補強や構造変更を含む大規模改装では、1.5〜3億円程度かかるケースが一般的です。新築であればさらに高額になります。
大型空調、客室数分の家具・家電、エレベーターや館内ITインフラなどで、5,000万円〜1億円前後の予算が必要です。
全国的なPRやブランディングを行うため、1,000〜2,000万円ほどが目安です。
従業員数が多くなるため、採用・教育費も含めて1,500〜3,000万円が見込まれます。
開業後すぐに売上が安定しない場合に備えて、2,000〜5,000万円程度の資金準備が必要です。
予期せぬ出費に対応できるよう、1,000〜2,000万円ほどのバッファを確保しておくと安心です。
同じ客室数でも、新築か居抜きか、直営かフランチャイズかといった条件によって費用は大きく変わります。
そのため、「どの業態で、どの程度の稼働率を目指すのか」を起点に、長期的な視点で資金計画を立てることが重要です。
開業資金をすべて自己資金だけでまかなうのは、現実的にはかなり難しいケースが多いです。とくに中規模以上のホテルでは、数千万円〜数億円単位の費用がかかるため、金融機関からの融資や補助金との併用が前提となります。
では、自己資金はどの程度用意しておくべきなのでしょうか?
一般的には、開業資金総額の2〜3割を自己資金として保有していると、金融機関の融資審査において「資金計画に信頼性がある」と判断されやすくなります。
たとえば開業費用が1億円と想定される場合、2,000万〜3,000万円程度の自己資金が必要という計算です。ただし、創業者の経験や物件の担保価値によっても融資の可否は変わるため、一律ではありません。
なお、次のような点にも注意が必要です。
開業直前に一時的に借りた資金を自己資金として見せても、金融機関からは信用されにくくなります。また、実際には「資金計画が破綻するリスクが高い」と判断され、融資そのものが通らない可能性もあります。
開業後すぐに黒字化するとは限らず、事業用資金とは別に生活費を用意しておかないと、途中で資金繰りに行き詰まるリスクがあります。さらに手元資金に余裕がなくなると、冷静な経営判断が難しくなり、結果として事業全体の安定性を損なう可能性もあります。
事業計画の説得力や、融資担当者との信頼関係も重要です。まずは自己資金を積み立てながら、どの程度の資金調達が必要かを逆算していくと、現実的な道筋が見えてきます。

ホテル開業では、立ち上げ時にさまざまな費用が発生します。どのような項目に、どの程度の資金がかかるのかを事前に把握しておくことで、資金計画の精度が高まります。
以下に、主な費用項目と相場の目安をまとめました。
立地や物件の広さ、築年数、駅からの距離などにより価格帯は大きく異なります。
新築の場合は土地代が重くのしかかりますが、居抜き物件や中古ビルを活用すれば、取得費用を大幅に抑えられるケースもあります。地方では比較的安価に取得可能な反面、集客の難しさも考慮する必要があります。
なお、物件取得費には以下のような付随費用も含まれます。見落とされやすいため、あらかじめ計上しておくことが大切です。
・設計費(工事費の5〜10%が目安)
・土地購入時の登録免許税・不動産取得税
・不動産会社への仲介手数料
・司法書士への登記報酬
ここには内装・外装の改修、耐震補強、給排水設備の更新、空調の入れ替えなどが該当します。
建物の状態によっては最低限の工事で済むこともありますが、快適性やデザイン性を高めたい場合は1,000万〜1億円程度の幅を見ておくとよいでしょう。また、古い建物では法規制への対応工事も発生しがちです。
客室内のベッド・リネン・家具・テレビ・冷蔵庫といった基本設備に加え、清掃用具やフロントのITシステム(PMSなど)も必要です。
目安としては、1室あたり200万〜600万円程度がかかるとされており、部屋数やグレードに応じて総額は大きく変わります。
また、ロビーやレストラン、厨房などの共用設備にも費用がかかるため、事前に全体のリストアップをしておくと抜け漏れを防げます。
営業には旅館業法に基づく営業許可が必要です。申請費用は2〜3万円程度ですが、書類作成を外部に委託する場合は追加で数十万円かかることもあります。
また、消火器や火災報知機、避難誘導灯などの消防設備の導入には、数百万円〜1,000万円前後かかるケースもあります。建物の構造や規模に応じて、安全性を確保するための設備投資が求められるため、その費用も事前に把握しておきましょう。
このほか、火災保険や施設賠償責任保険などの各種保険への加入費用も必要です。
開業時の認知拡大には、ロゴ制作・ホームページ構築・チラシやパンフレットの印刷にかかる費用のほか、OTA(楽天トラベル・じゃらんなど)への掲載準備費なども必要です。
最近ではSNS運用やGoogleビジネスプロフィールの整備も初期段階から重要視されています。全体で100万〜300万円程度を見込んでおくと安心です。
また、採用を行う場合には求人広告費なども発生します。自社サイトに宿泊予約システムを導入する場合は、システム導入費やランニングコストも計上が必要です。

ホテル開業に必要な資金は、同じ客室数・面積でも選択肢次第で大きく異なります。とくに以下の4つは、初期費用や運営資金に直接的な影響を与える主要な要素です。
開業方法として、「新築」と「居抜き(既存物件の活用)」では必要なコストの構造が大きく異なります。
土地取得、設計、建築工事、各種インフラ整備などがゼロから必要になるため、億単位の投資が前提となります。建築確認や各種許可の取得にも時間と費用がかかります。
既存の建物や設備を流用することで、内装や部分的な改修だけで済むケースもあり、大幅なコスト削減が可能です。ただし、用途変更や構造補強が必要な場合は、結果的に割高になることもあります。
とくに地方や観光地では、廃業した旅館や中小ホテルをリノベーションして再活用するケースが増えており、個人開業者にとっては現実的な選択肢となっています。
「どこに建てるか」「どんな物件か」は、開業資金に直結する重要な要素です。たとえば、同じ客室数・サービス内容であっても、都心と地方とでは必要な予算に大きな差が生まれます。
地価や賃料が高く、土地や建物の取得費用がかさみますが、その分、宿泊需要が安定しており、集客力を高めやすい立地です。
また、駅からの距離や周辺施設との関係性も、採算ラインに影響を与えます。
物件取得費は比較的抑えられる一方で、「どうやって選ばれる施設にするか」が課題となります。施設自体の魅力づくりや広告・販促の強化に、追加コストが必要になるケースもあるでしょう。
さらに、物件の構造や築年数、形態によっても、施工費や設備投資は大きく変動します。
たとえば、既存のテナントビルを改装する場合と、一棟建ての戸建て型施設を新築・改装する場合とでは、必要な工事内容がまったく異なるため、コストにも開きが出てきやすくなります。
このように、立地・物件タイプの選択は、初期費用だけでなく、将来的な集客戦略や運営方針とも深く関わってきます。資金計画を立てる際は、「費用対効果」の視点から複数パターンを比較検討することが重要でしょう。
開業するホテルの「業態」によって、必要な設備やサービス水準が異なり、資金にも顕著な違いが出ます。例えば、以下のような具合です。
宿泊特化型で、部屋面積・設備ともに必要最低限。比較的投資額は抑えられます。
客室以外にもプール・レストラン・スパなどの共有施設が求められ、広大な敷地と高額な設備投資が必要になります。
ドミトリー形式や共同スペースが主で、個室数も少ないため、初期費用・運営費ともに比較的低予算での開業が可能です。
無理のない資金計画のためにも、顧客層や地域特性と照らし合わせて業態を選定していきましょう。
「ホテル」とひと口にいえども、その運営方法にはいくつかの形態があり、それぞれに初期コストと経営上の責任範囲が異なります。
最も自由度が高く、ブランドやコンセプトも自ら設計可能。反面、設備投資・採用・販促・運営など、すべてを自力で担うためリスクと資金負担は大きくなります。
既存ブランドと契約し、ノウハウや集客力を活用できる運営形態。加盟金・ロイヤリティが発生しますが、開業時の支援を受けられる場合もあります。
物件オーナーが経営を委託し、運営会社が管理・運用を担う方式。初期投資は抑えられますが、オーナー自身の収益は限られる傾向にあります。
施設を一括借上げしてホテルとして運営するモデル。設備投資の一部が不要になる一方、毎月の賃料負担が発生します。
どの運営方式を選ぶかによって、必要な資金だけでなく、利益構造や運営体制も大きく異なるため、慎重に検討しましょう。

ホテル開業には、法律に基づく申請・届出、各種設備の基準適合が求められます。見落としのないよう、順を追って確認しましょう。
まず、宿泊施設を営業するには、「旅館業法」に基づく営業許可の取得が必須です。業態ごとに分類されており、「ホテル営業」「簡易宿所営業」「旅館営業」など、施設の規模や形態に応じて申請区分が異なります。
地域によって細かな基準が異なるため、事前に管轄の自治体(保健所や旅館業窓口)に相談してみましょう。
申請料2万~5万円程度(自治体により異なる)
事前相談から営業許可取得まで2〜3か月程度が目安
また、営業許可を得るためには、「消防法」「建築基準法」などの関連法令に適合した設備・構造である必要があります。避難経路や非常口、消火設備、火災報知器などの整備が求められ、とくに居抜き物件でも基準に満たない場合は追加工事が必要になります。
数十万円〜数百万円(避難経路の確保や火災報知器の設置、構造補強などの工事・設備導入費)
誘導灯の設置、火災報知設備の追加、壁や階段の構造補強 など
さらに、宿泊業を営むにあたり、事故や災害に備えた保険加入も欠かせません。また、開業にあたっては税務署への届出や法人登記などの事務手続きも発生します。
・施設賠償責任保険:約5〜10万円/年(規模・補償額による)
・火災保険:約5〜15万円/年(建物構造・地域・補償内容による)
・個人開業届出:無料(税務署へ提出)
・法人設立登記:約20〜30万円(司法書士報酬含む)
法的手続きや設備対応は、見落としやすく後回しになりがちですが、ホテル運営の土台となる重要なプロセス。各手続きの流れや基準を事前に把握し、専門家や自治体と連携しながら丁寧に進めることで、開業後のトラブルを防止し、安定した経営の土台を作ることができるはずです。

ホテル開業を考えるうえで自己資金だけではすべてまかなえないケースも多いため、適切な資金調達手段を選ぶことが重要です。宿泊業の規模や立地条件に応じて、複数の選択肢を組み合わせることを検討してみましょう。
自己資金は、金融機関からの融資審査において信用力の土台となるため、可能な限り準備しておきたいところです。とはいえ、居抜き物件を活用した小規模な施設でも1,500万〜3,000万円程度が目安となるため、すべてを自己資金だけで用意するのは難しい場合が多いでしょう。
開業資金調達の基本となるのは融資です。日本政策金融公庫では、創業者向けの融資制度が整っており、無担保・低金利といった条件も魅力です。地方銀行や信用金庫でも、地域密着型のサポート体制のもと、事業計画段階からの相談が可能です。
資金調達の手段として、エンジェル投資家や不動産ファンドからの出資を受ける方法もあります。ただし、出資を受ける場合は経営への影響や利益配分の取り決めなど、契約上のリスク管理が必要です。また、開業コンセプトがユニークであれば、クラウドファンディングを活用して一般から広く資金を募ることも可能です。
国や自治体の補助金制度も検討に値します。創業補助金や観光業支援の助成金などがあり、設備投資や改修工事などの費用の一部をまかなえる場合もあります。ただし、多くの補助金はいったん自己負担で支払った後に還付される「後払い形式」のため、あらかじめ資金繰りに余裕をもたせておく必要があります。

ホテルや旅館の開業は、スタート地点にすぎません。開業後も安定的に運営を続けていくには、日々のランニングコストを見据えた資金計画が不可欠です。
運転資金の中でもとくに大きな割合を占めるのが、人件費と水道光熱費です。
フロントや清掃スタッフ1人あたり、月20万〜30万円程度が目安となります。宿泊施設の規模や稼働率に応じて、必要な人数を見積もりましょう。
客室数や利用状況によって変動しますが、月数十万円規模を想定しておくと安心です。
アメニティやリネン類の補充に、月5万〜10万円程度かかることが一般的です。
開業後しばらくは、売上よりも支出が先行しやすい時期が続きます。とくに初期は設備投資の回収が始まらず、集客にも時間がかかるため、資金繰りが厳しくなるケースが少なくありません。そのため、最低でも半年〜1年分の運転資金を確保しておくと、予期せぬ出費や売上の波に柔軟に対応できます。
どれほど入念に準備しても、初年度は赤字になる可能性が高いのが宿泊業の現実です。稼働率やリピート率が安定するまでには一定の時間がかかるため、最初から黒字化を目指すのではなく、赤字を見越した資金計画を立てることが現実的です。
赤字リスクに備える方法としては、以下のような対応が考えられます。
開業後の運営は、想定以上に体力を要する場面も少なくありません。
だからこそ、軌道に乗るまでを見越した余裕ある資金計画と、柔軟な資金繰りの仕組みづくりが鍵になります。万全の備えが、事業の持続力を支える土台になるのです。

短期的な黒字化だけでなく、長く安定的にホテルの経営を続けていくためには、計画的かつ柔軟な資金管理が欠かせません。とくに初めて開業する場合は、予測できない出費や収支のずれが起きやすいため、あらかじめ備えておくことが重要です。
どれだけの売上があれば黒字になるのか?
経営の持続可能性を見極めるうえで、まず把握しておきたいのが「損益分岐点」です。感覚的な目標設定ではなく、数字に基づいて目標と戦略を組み立てることが、経営の土台を安定させる鍵となります。
家賃・人件費・水道光熱費・リース代・広告宣伝費などの「固定費」と、宿泊者数に応じて変動するアメニティ・清掃費などの「変動費」を合算し、月間で最低限必要な売上額を算出します。これが、利益がゼロになるライン=損益分岐点です。
算出した損益分岐点をベースに、「稼働率」「客室単価」「客室数」の3要素を掛け合わせて売上目標を逆算します。たとえば、10室のホテルで1泊1万円、稼働率70%の場合、月間売上は約210万円。そこから逆算して、「どのくらいの集客が必要か」「単価を上げるべきか」「費用を見直せないか」といった具体的な改善策も立てやすくなります。
数値目標が定まることで、日々の運営判断における指針が生まれ、行き当たりばったりの経営を避けられるようになります。損益分岐点を味方につけ、ブレない売上設計を目指しましょう。
ホテル経営において“想い”や“ビジョン”だけで勝負するのは難しく、数字に裏打ちされた現実的な計画が必要になります。とくに金融機関からの融資を受ける場合や、出資者・パートナーを募る際には、「この計画で本当に回るのか?」という信頼を得られるかどうかが鍵になります。そのために不可欠なのが、説得力のある事業計画書と、現実的な収支シミュレーションです。
開業の背景やコンセプト、立地選定理由、ターゲット層、競合との差別化ポイントに加えて、初年度〜3年間の収支見通し、費用項目、売上予測、キャッシュフローなどを具体的に盛り込みます。
「通常想定」「売上低下時」「繁忙期拡大」など複数のケースを比較することで、リスクに備えた現実的な資金計画が立てやすくなります。とくに売上が軌道に乗るまでの赤字期間をどれだけ見積もるかは、資金調達額を決めるうえでも重要です。
数字の裏付けと現場感のある計画書を準備することは、開業準備を「自分の頭の中」から「他者と共有できる形」へと引き上げるプロセスでもあります。構想を言語化・数値化しておくことで、自らの意思決定にもブレが生じにくくなり、経営の羅針盤としても機能します。
どれだけ綿密に計画しても、想定外の出来事は起こるもの。ホテル経営では、突発的なトラブルや予測不能な外部要因によって、急な出費や収入減に見舞われることがあります。そんな時、経営を揺るがさないための“備え”が「資金クッション」です。
設備の老朽化によるボイラー故障や水漏れ、台風や地震による損壊、感染症の流行に伴う大量キャンセル、さらに近隣への競合ホテルの進出など…。こうした要因による収益の急減や予期せぬ出費は、いかなる施設でも避けられないリスクといえます。
目安としては、月商の1〜2ヶ月分を最低ライン、可能であれば3ヶ月分の運転資金を、あらかじめ「緊急時用資金」として確保しておくことが推奨されます。また、資金が一時的に不足した際の対策として、金融機関とのつながりを持ち、つなぎ融資や信用枠の確保なども事前に検討しておくと、いざというときの対応がスムーズです。
不測の事態は、経営判断を狂わせるだけでなく、精神的な余裕も奪います。だからこそ、「備えていたかどうか」が経営の継続性と信頼性を大きく左右する要素となるのです。
ホテル経営は「開業して終わり」ではありません。
むしろ、開業後にどれだけ価値を保ち、時代に適応し続けられるかが、長く選ばれる宿になるかどうかを分けるポイントです。設備や内装は年月とともに劣化し、ゲストの期待値も変化していきます。だからこそ、リニューアルを見据えた長期的な視点が欠かせません。
たとえば開業から3年・5年・10年などの節目ごとに、客室の壁紙や家具を入れ替える・共用部のデザインを刷新するといったアップデートを行うことで、施設全体の印象を常にフレッシュに保てます。こうした改善は、清潔感や快適さへの評価につながり、リピーターの獲得や口コミでの高評価にも直結します。
こうしたリニューアル費用をその都度の収益から捻出するのは難しいため、年間利益の一定割合を「将来投資資金」として計画的に積み立てておくのが理想です。加えて、省エネ設備やスマートチェックイン導入など、将来的な運営コスト削減に寄与する投資を織り込んでおくと、経営の安定性が増します。
施設を「古びさせない」努力は、宿泊体験そのものの質を支える土台となります。数年先を見据えた設計が、ブランドとしての価値を持続させるカギとなるのです。
ホテル開業には多額の資金と慎重な計画が求められます。
初期費用・運転資金・許認可費用をバランスよく見積もり、調達手段も多角的に検討することが大切です。また、持続的な運営を目指すなら、事業計画書の作成や損益分岐点の把握、資金クッションの確保といった“守りの設計”にも目を向ける必要があります。
しっかりとした資金計画と準備が、理想とするホテル経営を着実に現実へと近づけてくれるはずです。